マルチ系

Nux MG300ーIRローダーの可能性

2022年 05月 19日 21:53 | カテゴリー: マルチ系
2022年 05月 19日 21:53
マルチ系

昨今、アンプモデラーを搭載したエフェクターで持て囃されているのがIRローダーです。IRとはインパルスレスポンス(Impulse  Response)の略で、簡単にいうと音響特性を備えたオーディオファイルに音声信号を畳み込み演算することで、その実機に近い音響特性を得ることを言い、このIRファイルを読んで処理するのがIRローダー(IR Roader)です。

古くはリバーブなどで、実際の教会内部の音響特性を録音したリバーブとか、様々な空間を録音した音響特性をリバーブとして使う(サンプリングリバーブと言います)のが始まりだったのではないでしょうか?

ここへ来てそのIRがスピーカーキャビネットの特性を得るために使用されてくることになります。具体的にいうと、KemperやAxe-fx、HelixやPod-Go、Positive Gridなど、アンプモデリングを主とする名だたるメーカーが取り組んでいるのであります。

さらに中華メーカーでデジタルに強い、Moore、Velton、Nuxといったところが廉価なマルチエフェクターにIRローダーを積み、音質も上がって(実機に近くなって)来ています。

ですから、廉価とはいえ一昔前のアンプモデリング+フィルター(スピーカーキャビの音質を模した)よりも数段実機に近い仕上がりで、リアルな音質を醸し出します。

 

そもそもIRファイルって何?

簡単にいうと、スピーカーキャビネットの音響特性を読み込めるようにしたファイルのことです。もちろんスピーカーキャビだけではなく、マイク本体やマイクのセッティング(位置、距離など)、その録った空間の響きや壁の材質による反射などが含まれます。ですから例えばMarshallの1960Aキャビ(スピーカーはセレッションG12 T-75です)一つとっても録る人が違えば全く違う特性のファイルとなります。3rdパーティ製のIRファイルでも同じことが言えます。例え同じ機材を使ったとしても、アメリカで録ったIRとイギリスで録ったIRは違う音になります。

またIRファイルも自身で作ることもできますが、簡単にいうとサラウンド用の録音環境+録音に適した場所がないと難しいと思います。確かLogic Pro XにSpace Desigenerというリバーブのプラグインがありますが、これ用のIRユーティリティの取説に詳しく載っていたはずです。

ですので、アンプのモデリング精度とスピーカーキャビ(IRローダー部分)で聞き比べると各社の設定したIRファイルが聞けるわけです。聞き比べると当然似ている、似ていないの問題になりますが、マルチエフェクターに内蔵されているのはそのメーカーが作ったIRファイルです。だからどのマルチエフェクターでも本物実機を使用しているのは間違いありません。あとはそのエディット幅(トーン調整など)や好みの音質かどうかで決めても良いのではないでしょうか?

YouTubeでは比較動画がたくさん上がっています。本物実機と高級機、廉価版といった様々なマルチエフェクターの弾き比べをしている方がたくさんいます。

中でも、今回のNux MG300はかなり良い線いっていると思います。

 

2種類のIRファイル

現在のハードウェアでは、一般的にIRファイルは線形(リニア)型とされています。これは例えるならスピーカーの動作において小さい音は小さく、大きい音は大きくというリニアな動きをファイル化したものです。これだけでも特性としては十分なものではありますが、よりリアルな動きを追求したDSR(Dynamic Speaker Response)というファイルもあります。これは非線形(ノンリニア)型で、例えるなら小さい音は小さくとも弾いている音域によっても変わります。つまり低音域ならばやや大きく、高音域ならやや小さめといったスピーカーのリアルな動きの特性をファイル化したものです。

詳しくはCelestion Digital(Marshallのキャビに入っているスピーカーでお馴染みのセレッションが運営しているデジタル用のサイト=https://www.celestionplus.com/)の「Knowledge Base」というところを参考にしてください。こちらにIRについての情報が網羅されています。

簡単にいうとCelestionという有名スピーカーメーカーが独自に開発したIRファイルで、自社のスピーカーについてIRファイルを販売しています。このDSRファイルは自社開発の「SpeakerMix Pro」というプラグインでDAW上で使用できるようにしています。

ですから、本当にリアルを追求するならば、このプラグインでDSRファイルを使った方がよりリアルな、しかも有名スピーカーメーカーのオフィシャルなものですから、そのリアルさは想像に固くないでしょう。

で、ハードウェアにおいて今一般的に出回っているもの(KemperやFractalなどの高級機含む)では、自分の知る限りではまだDSRまで読めるIRローダー搭載機というのはありません(と思います)。上記サイトの中にも現在対応できるハードがいくつか載っています。それら用のファイルフォーマットの解説もあるので、気になった方はご一読をお勧めします(英語ですがGoogle翻訳でちゃんと読めます)。

話を戻して、Nux MG300もIRファイルに関してはリニア型です。ですが、現在のマルチエフェクターのどれもがリニア型であることを考えれば、どれもほぼ同じと考えても良いでしょう。問題はそのIRファイルを作った時の録音環境で、それが自身にとって好みかどうかということです。

MG300のIRフォーマットは48kHz 512samples リニアタイプのWAVファイルです。Sample数は大きいほど音響特性が良い(データ量が多い=リアルな再現ができる)ということです。

 

IRローダーを搭載したマルチエフェクターについて

IRローダーが実機のスピーカーキャビ+マイク+マイクセッティングといった残響を含む特性を読むため、実機となんら遜色がないことは先に述べた通りですが、各社の録音環境によっても変わることも同じです。ですから同じキャビでも各社違う音はあり得ます。さらに言うならば、それに組み合わせるアンプモデリングの精度も同じことが言えます。

例えば一昔前のPOD X3は使っていて、当時はよくできているなと思ったものですが、やはりキャビネットがマイクを通した時のフィルターとして作られていたのでほぼ調整はできず、せいぜいマイクの位置によるこもり具合がいじれるくらいでした。さらにPODからの出力がライン出力用に作られていたため、結構バキバキな硬い音がしていました。

Vox  ToneLAB STは真空管内蔵でアンプモデリングも精度は高い方でした。で、出力はライン、Fender、Marshall、Vox用アンプ向けに(たぶん)インピーダンス調整が可能でしたので、PODよりも数段バキバキ感が失われ、程よい感じで音は出力されていました。ただスピーカーのラウド感と言いますか、やっぱりフィルターの域は抜けず、割と平坦な音であったことも否めなく、弱点としては一部のコンボアンプではキャビが存在せず、他のアンプのキャビを使わなくてはならないとか、そんなアンプねーよと言う感じでした(POD X3も同じですね)。

もちろん、これら2台はアナログベースでオーディオI/Fに入れた時も、USBで直接デジタル化した時もその出力音は変わらずです。

mg300_3.jpg

で、今度はこのアンプモデリング+IRローダーですよ。いや、廉価であるとはいえ、比べ物にならないほどリアルです。ちゃんとスピーカーのラウド感が出ているではありませんか。歪ませてブリッジミュートでゴンゴン弾くとまさにリアルアンプ並みの音圧感です。

驚いたのはアンプモデリングの方でもあります。昔のモデリングは操作子(いわゆるコントローラー)が優先されたのか、あり得ないパラメーターがあったりしたものです。例えばVox AC30などはBass、TrebleにCutというコントロールが実機にありますが、そんなものはなかったりと、まあ時代の流れ(CPUの処理速度の問題もあったのでしょう)ではありますが、あり得ないパラメーターがついていたり、ついていなかったりでどうしたものかと思いきや、なんとNux MG300では有名どころのアンプは割りと忠実に再現されています(一部のアンプでは、ないパラメーターがあったりします)。

レビューは別記事で出しますが、その忠実に再現されたアンプモデリングに、精巧なIRローダーを積んだMG300はちょっと侮れません。他の廉価中華マルチ(Moore、Veletonなど)は試してはいませんが、YouTubeに比較動画があり、それらを見る/聞く限り、そんなに大差はありません。メーカーごとの違いはもちろんありますが、1台だけを試すならどれも「アリ」な音です。

さらに本物実機と高級機(KemperやAxe-FXなど)とも比較した動画もありますが、極端な差は感じられません。それほど、IRがよりリアルであると言えます。

そしてつい先頃、Zoomが新製品 G6を発表しました。4万円台のミッドレンジモデルとでも言いましょうか?やっぱりIRローダーを積んできているわけです。アンプモデリング部分は気になりますが、そこそこ良さげな感じです。発売が待ち遠しいですね。

まあ、こんな感じでアンプモデリングを売りにしているマルチは、このIRローダーが1ランク上に引き上げるといっても過言ではないでしょう。

 

IRはメーカー製が一番良いのか?

多分、その実機に積まれたIRはそのメーカーが録ったIRで調整されているはずですから、一番相性が良いというのは事実としてあります。あとはその音質が好みかどうかは皆さんそれぞれの耳に委ねられると言って良いでしょう。

これからの主流になると言っても過言ではないIRですが、サードパーティ製でもどこまで良く録れているかが試さないとわからないので、色々なIRを探していました。

面白いものを見つけたのでご紹介します。

70年台のFenderアンプ(いわゆる銀色のパネルになった「銀パネ」と呼ばれてます)はCBSに売却後になって時代が移り変わり、混迷の時期と言えます。70年台のハードロック、メタルといったブームにより、より歪みを得られるアンプが売れた時代にどクリーンにこだわり続けて売れなくなっていたのでした。そこでCBS側としては楽器のことを何も知らないセールス部門の試行錯誤に振り回されることとなります。

「より高音質の方が売れる!」と、とにかくスピーカーを変えまくったんですね。ですから銀パネTwinにはUtah、Rola、Oxford、JBL、Electro Voiceなどスピーカー違いの仕様がいくつも存在しています。銀パネTwinReverb的には主に3種類の仕様がありまして、100Wマスターなし、100Wマスター付き、135W(もちろんマスターはついています)です。出力は上がってスピーカーも良いものになることで、まず歪まないです。もちろん全く売れなかったわけではなく、歪みを必要としないジャンルには受け入れられていました。銀パネ期の初期、60年台後半はまだCBSのセールスが過去のサーフブームを引きずっていたのでしょう。その路線でいけると踏んでGOしたわけですが、ハードな音楽の圧倒的なブームに押し潰されてしまうことになります。

この中でも僕の大好きなアンプにこの銀パネTwin ReverbのスピーカーにJBLを積んだものがあります。JBL D120Fというスピーカーです。これですね、楽器(特にギター)用としては少しレンジが広く、ピークが4khz付近で、上はたしか8〜10khzくらいまで出ていたはず(個体差が大きいのです)です。だから上はJC120に及ばずとも、耳触りの良い抜け感があるんです。だからストラトなら程よい鈴鳴り、レスポールなら中域が厚く抜けが良いと、クリーンアンプの愛好家から人気のあったモデルでした。

で、本題はこの銀パネTwin +JBL D120FのIRデータを見つけたのです。IRのキャビシミュレーターをエフェクトペダルとして売っているメーカーで、「Shift Line」というロシアのメーカーです。このページ(https://shift-line.com/irpacktwin)にその73TwinのIRと説明があります。

特筆すべきはマイクでしょうか?2種類あるのですが、一つはSennheiser e906(ファイル名にはe609とあるので困りました。どちらも実際に存在するマイクです)、もう一つがLOMO 19A19というビンテージのチューブコンデンサーマイクで、僕は知らなかったのですが、調べるとテレフンケン/ノイマン U47の対抗馬とのこと。現在では$2000〜$3500くらいで取引されていました。もちろんロシア製です。なんかPink Floydのエンジニアが買い占めしていたなんて記事も見かけました。

さっきのページにマイクポジションの説明なんかもあり、2種類のマイクに5ポジションなので合計10ファイルほどのIRデータがあります。それぞれのファイルの特徴を示す説明も良いです。MG300は512Sampleで、このファイルは1000Sampleあるので読めるかな?と思いきや、試してみたら読めるんですよ、これが。

確かにIRだけは銀パネツインですが、アンプは65Black PanelのTwin Reverbですから100%銀パネという音ではないにせよ、JBLのスピーカーの良さが出ている音になっているのではないのでしょうか?

マイクとその位置でも結構違いがありますね。いろいろ試して、自分的には No8のファイルが好みでした。

こうなってくると、Marshallアンプモデリングを使って、CelestionオフィシャルのIRも試してみたいですね。まだサードパーティ製も少ないですが、これからたくさん出てくると思われます。中でもレアなスピーカーキャビがあると嬉しくなります。まあCelestionに関してはMG300本体内でもいくつか種類があるのでキャビ違いは試せますけど。

 

今後はIRローダー付きマルチというのが定番になりそうですので、IRファイルを探す旅が始まりそうです。