
進化系コンプの謎
ダイナミクス系
さて、久しぶりにコンプの話題を。
効果としてはその地味さが相まって、そんなに目立つエフェクトではないものの、たぶんですが良い意味で一番自分が上手くなったと錯覚させてくれる、絶対に外せないエフェクトの一つがコンプです。
数年前までは定番と呼ばれた、MXR Dyna Comp、Ross Compressor、Musitoronics Orenge Squeeser、Boss CS-1などの本物、本家継承もの、そしてモディファイもの、コピーものくらいがはびこっていたもので、これらはコピー系で中華ものが台頭し、かたやブティック系メーカーが性能を突き詰めたハイエンドなモデルで2分されていたような気がします。
ところがこうした中で、少し進化が見えて来ました。これはやはりハイエンドの究極とも言えるレコーディング現場からのフィードバックという内容で、コストも形もダウンサイジングされてきているということです。
そこで今回は少し細分化されてきたコンプについてお話しします。
一般的な定番コンプ
これは説明することもないのでしょうが、まあ普通のコンプです。というと身もふたもないので、簡単にいうと、ストンプタイプではギターやベース用に数多いパラメーターを絞って、せいぜい1〜4個くらいのノブです。ギター用だとアタック、サステイン、レベル、トーンくらいのコントロールが多いです。前述のダイナコンプを筆頭に、いわゆるパッコーン的な音が出るものです。
動作回路はいくつかありますが、VCAやオプティカルなど、コスト的にも抑えて作ることができます。
と、まあ簡単すぎますが、こんなものです。あまりにもたくさん該当機種があるので、ここでは割愛します。
スタジオラック系コンプ
本題はここから。たしかに一般的コンプからすると少々お高いものになります。コンパクト〜ちょいと大き目なストンプ型で、代表的なのはレコーディングスタジオではど定番なUrei 1176系のラック型をダウンサイジングしたものです。
有名どころではOrigin Effects Cali 76シリーズとか、Katanasound Blue Stripe、Empress Effects compressorあたりがそれに当たります。
特長的なのは1つに圧縮率(Ratio)がコントロールできることが挙げられます。一般的なコンプではこのRatioが固定、または他のパラメーターと自動的に連動するのがほとんどで、ユーザーが自由に決められないところです。設定するノブやスイッチが多いことで、細かな設定ができるようになっていることがほとんどです。
また、1176系以外にもチューブコンプもあります。これはフェアチャイルド660とかゲイツ(とかもそうかな?)などの真空管を用いたものです。これには、Gurus Amp Optivalveなんかがそうですね。
こうしたスタジオ常設のラックタイプのハイエンド系は、サウンドも独特でおなじ1176系でも各社全く音が違います。
これらはなかなか置いてある楽器店すら少ない状況ですが、一度は試奏することをお勧めします。You Tubeでもかまいませんが、ビデオムービーのマイクの音質を加味した上での判断になりますので、うまく判断してください。
マルチバンドコンプ
これもレコーディングでは欠かせない1つのファクターで、特にミックスのファイナライズ場面では活躍しているコンプです。
マルチバンドコンプとは、かかる周波数帯域を分けて、それぞれの帯域別に調整ができるコンプのことで、3〜4バンド程度(分けた周波数に対するコンプの数)が一般的です。
で、これをギターに限って言うと、6弦側と1弦側では出力が違うわけで、これらを慣らすにはマルチバンドというのは理にかなっています。ところがこれを処理する能力を持たせるためには少し前まではラッククラスの大きさがないとつくることができませんでした。しかし昨今のデジタルの進化、DSPの発展によりそのダウンサイジングが可能になってきたのです。
代表的なのは、Boss CP-1x、TC Electronics Hyper Gravityなど、やはりデジタルでの製品で筆頭のメーカー製品です。そして特長的なのは、本来設定が難しいマルチバンドにもかかわらず、入力信号を自動的に感知してうまい具合に動作します。ですからユーザーの設定はほぼ一般的なコンプと同様のパラメーターだけです。
従って、ギターにせよ、ベースにせよ、弦飛びフレーズのように弾いている弦が変わって出力がバラついたとしても、またベースのスラップのように高音の方が出力が大きくなる場合でも、奏法が極端に変わる場合でも、美味い掛かり方をしてくれるのが、マルチバンドコンプです。
パラレルコンプレッション系コンプ
これも古くからあるレコーディングのテクニックとして用いられていたものです。あれ?どこかにパラレルコンプレッションについて書いたな?DTMのところです。
簡単にいうと信号を2本に分けて、片方はストレートに、もう片方にコンプを掛けて、最後にミックスして出力するのがパラレルコンプレッションです。
この効能は原音のニュアンスを保ったまま、ダイナミクスが圧縮された音をミックスすることで、両方のいいとこ取りをした音が得られます。あえて言うならば、マルチエフェクターでパラレルにして、片方が原音で、もう片方がアンプとかにすると、原音のアタックや太さが強調され、さらにアンプの迫力も得られる、というのとさほど変わりはありません。つまり原音の太さやアタック感を残しつつ、自然なコンプレッションを目的としたテクニックなんですが、これがコンプに内臓された機能なのです。
代表的なのは、Truetone Route66のコンプ側(これはオーバードライブとコンプの2in1です)、Seymour Duncan Vise Grip などがそれで、必ずミックス(原音とエフェクト音のバランス調整)がついています。
多機能系コンプ
ここに載せるべきか迷いましたが、昨今増えてきたので一応ご紹介。
簡単に言いますと、コンプだけでなく別の機能が合体したものです。別といっても付随する類いのものですが、EQやブースターなどが別のパラメーターとして用意されたものです。
まあストンプして考えれば、Outputより瞬時に音量上げることができたり、レコーディングではコンプの後にEQをかけて音質補正は常套手段です。もちろん個体が小さいのでEQなどはトーンの延長だったりするものもありますが、ブースターなども昔はコンプで出力を上げ、それ自体をブースターとしたのてはなく、あきらかにもう一段上げるためのツマミが付いたものを指します。
代表的なのは、HaTeNa? The Spice、Strymon OB.1などがそれです。このタイプは意外と身近な価格帯てもあるので、目にする機会も多いのではないでしょうか?
高性能コンプの配置(謎はここ)
最後な多機能系コンプ以外は説明通り、レコーディングでは割と定番で、当たり前であるのですが、その当たり前はギターやベースの後ろ、つまりアンプをマイクで拾って卓ヘインしてから卓内で掛けるものであることに気がつきましたでしょうか?
ですから本来なら配置は後段にあたるわけで、クリアだろうが歪みだろうが構うことなくギター全体にかかるものです。ですが一般的なコンプは割とギターの直後に入れることがほとんどではないでしょうか?
確かに単品て試奏すると良いんです。で、買いました、さて家に持って帰って自分のシステムに入れてみるとき、どこに入れますか?歪み系もあれば、コーラスやディレイもあります。エフェクターの接続順には決まりはありません。結構困りませんか?
例えばチューブコンプなら通すだけで音質は変わるので、割と前でいいと思います。マルチバンドコンプなら前述のようにギターやベース自体が各弦の出力がバラつくので、これも前側でもいいです。スタジオラック系が一番困ります。普通に前に入れるのはありでしょう。多分どれも前側に入れることを前提に作られているはずです。
ただcali 76シリーズの上位機種なんかは後段に入れるのもありではないでしょうか?
ではなぜコンプは普通前側なのか?
歪みものがあるからです。歪みの原理はある一定ラインに過大入力させてそのオーバー分が歪みを生み出すのは、もうご承知の通りです。つまり、ある一定ラインというところに向かってオーバーしたレベルが圧縮されているということと同義です。
ですが、コンプの圧縮と違うのは、歪み始めるある一定ラインのレベル外からレベル内に抑え込むところです。一方コンプの圧縮は歪み始めるある一定ラインのレベル内から圧縮する、歪まないところから圧縮します。
さらに歪みの方は歪むことで倍音が増し、まだ圧縮感が薄いわけですが、コンプはダイナミックレンジが狭まるために圧縮感が増します。ですから歪みの後にコンプを持ってくると歪みで得た美味しいところがコンプの圧縮で相殺されてしまいます。簡単にいうとこんなところです。
ギター、ベースのエフェクトとして使う場合は、コンプを前にして音量バランスを整えてから歪みで加工した方が音楽的なニュアンスが得やすいということが、一般的にまかり通っている理由です。
かたやレコーディングでは、ギター以外にもボーカルや他のインストがありますから、さらに均してやる必要があり、細かい設定ができるようにパラメーターも増えて、高性能化したコンプが必要なわけです。
こうして考えると、インスト用のコンプには一般的なタイプか、せいぜいマルチバンドコンプくらいが適当な気がしますね。
コンプを使う理由を明確に
コンプにはいくつか使い道があります。
- 音の粒を揃える
- 音を伸ばす
- 音量を上げる(または下げる)
- 音抜けを良くする
などです。
このうち、一般的なコンパクトタイプでは上の3つが当てはまります。一番下の音抜けに関しては1番に近いのですが、各弦の出力を整えたところでEQなどで補正するということです。
コンプの絶対的性能はダイナミックレンジを圧縮することです。これは良くもあり、悪くもあります。設定できるパラメーターにもよりますが、良いことは音がまとまること、悪いことは音が籠もることです。これはコンパクトでも高性能ラックでも同じです。
コンパクトでは、意外とトーンが付いていないものが多いので、音抜けを考えるとトーン付きか、EQとの併用、そして圧縮比は固定ながら圧縮度合いを決めるCompの深さと連動してSustainが伸びるものも多いです(この2つのパラメーターは逆に呼ばれるものもあります)。サステインが伸びるということはノイズも上がるということです。
コンプを選ぶなら、基本はダイナミックレンジの圧縮で良し悪しがあることを念頭に置き、籠もるということ、サステインが必要かどうかを判断すると、最適なコンプが見つかると思います。もちろん音質は絶対条件で、あとはどう使うかで選定は定まってくるでしょう。