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マニュアルにも書かれていないパンとSendトラックの使いこなし方2/3

2013年 04月 04日 05:12 | カテゴリー: Mix
2013年 04月 04日 05:12
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さて、ここからが本番と言っても良いでしょう。特にLogic使いの方には読んで欲しいです。バストラックの扱いは内部ルーティングを理解していないと、思い通りの音像が得られません。ピンポイントでわかる情報(マニュアルに書かれていたり、ネット上でよく見かけるモノでも)も、「なぜそうするのか」を理解してやってみると格段に違うことがわかります。さあ、実験が続きますよ。

 

エフェクト位置をインサートからAUX(バス=モノラル)に変更

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インサートしたリバーブをオフにして、Sendから信号をバスへ送って、そちらへリバーブを挿します。これも普通のルーティングです(図5)。

  1. SendからBus1を指定して、出力を0.0dBまで上げておきます。
  2. 新たにAUXトラックを作り、入力をBus1にします。
  3. できたAUXトラックにリバーブをモノラルでインサートします。
  4. リバーブのセッティングをバス用に変更します。出力は必ずDry=0%、Wet=100%とします。その他は任意です。ここでは効果をはっきりさせるため、ルームサイズを極端に上げておきます。

ちなみにこのバスルーティングはハードウェアからきています。たとえば宅録用のミキサーならAuxに外部エフェクトを差し、戻りの信号をAuxリターンに入れるので、Auxノブだけの調整で済みますが、昔のレコーディング卓ではバスを持っていない卓がほとんどですのでチャンネルに戻したわけです。昔のレコーディング卓に関しては「ステムミックスの今昔物語」でもお話ししています。チャンネルに戻す効能は、1)小さいノブより大きい100mmフェーダーの方がコントロールしやすい、2)原音とのバランスが視認しやすい、などの理由で、プロの現場では普通に行われていた方法です。こうした昔ながらの方法はこのチャンネル戻しに限らず、ミックスのテクニックにおいてもDAW上では失われつつあるんですね。だから初心者はミックスがうまくいかないという場面に遭遇することが多いのです。

では、聞いてみます。出力はモノラルで、まだパンは振っていないので、原音トラックも、バストラックもセンターですから、原音もリバーブもセンターから聞こえます。

 

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次に、パンを振ってみます。効果がわかりやすいように、原音を左いっぱい、リバーブを右いっぱいに振ります。

これが、ユニバーサルトラックモードを外し、リバーブ(エフェクト)の音像をコントロールする方法です。

これはディレイの返しを音源とは反対に振って立体感を出したり、広がりをつけたりするのによく使われる方法(後述)です(図5-1)。

 

エフェクト位置をインサートからAUX(バス=ステレオ)に変更

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リバーブをモノ→ステレオタイプにしてみましょう。リバーブを切り換えます。すると、Auxトラックのメーターがステレオに変更されます。メーター下のモノ/ステレオ切り替えボタンはモノのままです(図6-1)。

リバーブに関しては前述のモノリバーブと同じセッティングです。出力は必ずDry=0%、Wet=100%とします。まだパンは振っていません。両方共にセンターです。

では聞いてみます。リバーブがステレオになることで広がり感が出てきています。もしわかりにくいようならヘッドホンで聴いてみてください。まだパンがセンターなので、広がり感が掴みにくいかも知れません。ですが、前のモノラルと比較するとはっきりわかります。


では、パンを振ってみます。先ほどと同様に原音を左、リバーブを右へ振ります。ステレオになったトラックはパンはバランスになります。ですからモノ時と違うのは、右振ったはずのリバーブがセンター~右いっぱいまでの間でなっている点です。リバーブ音がモノラルの時と違い反響がやや遅れて返るのがわかります。

 

フレキシブルなパンの設定

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ここまでで4種類のパターンを聞いてきました。しかしここで問題となることが1つあります。それが「パンの出力方法」です。Logicはこれが非常にフレキシブルです。それ故にユーザーを混乱させます。ここはじっくりと読んで理解してください。他のDAWの方は「ポストパン」だけ飛ばしてかまいません。

Sendが有効の状態で、Sendボタンをマウスで長押しますと「パンの出力モード」が選べるようになります(図7-1)。上から「ポストパン」「ポストフェーダー」「プリフェーダー」です。デフォルト(初期設定)は「ポストフェーダー」です。
 

ポストフェーダー

これは本来のモノトラックの信号がモノトラックのフェーダーを通過した後で分岐され、バスへ流れるという設定です。ですから、Auxに挿したエフェクトを抜きにして、原音トラックの音量調整が出来ます。これが理由でAuxのエフェクトはDry音(原音)を「0」にする必要があります。この方法で、原音(元のトラック)とエフェクト(Auxトラック)の音量バランスが独立して調整できます。Auxトラック上のエフェクトのDry音を出力してしまうと原音が2つ同時に鳴るので音像が狂う上に、音量も変わります。

この状態でパンを振ると、原音は左右に振れますが、Auxバスはセンターから動かすことはありません。できないわけではないのですが、Auxトラックは挿したエフェクトによりステレオかモノかが決定します。ここではモノ→ステレオリバーブを挿しますので、Auxトラックのパン(ステレオになった時点でバランスです)は振ると偏るので、わざわざステレオにした意味がなくなります。

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ユニバーサルトラックモードがオンの場合、モノ信号を1つのチャンネルで2本のトラック処理(ペア)を行うため、Auxチャンネルはほぼ同じ信号を2本出します。モノトラックの信号が2本同じトラックで流れることで、エフェクト音は聴感上モノになりまして、音量は1本の時よりも多く出力されます。実際「音が引っ込まない」ことや「変にエフェクト音量が上がる」などのように聞こえます。

ですから、ポストフェーダー時にエフェクト音(この場合Auxバスで出力していたとして)が前に出てきて、聞いていると原音のパンが効きにくい、または音がまとまってぐちゃぐちゃになる、すっきりしないという現象が起こります。ネット上でよく見かける「Logicのミックスは音が団子になる」というのはこれが原因です(図7-2)。

↑ポストフェーダーの音

 

↑ポストパンの音(後述)

この点は古くから言えばPro Toolsは、マルチトラックレコーダーの替わりとして開発され、未だにスプリットファイルであるこだわり(従来のやり方の継承)が、自在なミックスを生み、プロに使用されてきた理由の一つでもあります。世の中に様々なファイルが行き交うため各社独自に開発していますが、Logicのように特殊なステレオバスであるユニバーサルトラックモードを持つDAWは(僕の知る限り)他にはありません。LogicがPro Toolsに通じるデファクトスタンダードなミックスに、独自モード(ユーザー利便性を第一に考えたミックス)を可能にしてフレキシブルにしたおかげで、余計な混乱が起きているわけです。
 

ポストパン

このユニバーサルトラックモードの不具合を解決するために積まれた機能が、この「ポストパン」です。モノトラックの信号がモノトラックのフェーダーとパンを通過したところで分岐され、バスへ流れるという設定です。そのため、原音でのコントロールが効くようになり、エフェクト音の音像はステレオで残したまま、原音のモノトラックは音量とパンを自在に操れるようになる、ということです。

先に言ったように、基本的にはポストパンを積まれた機材(ハードにせよ、ソフトにせよ)はほぼ皆無ですから、Logicのデータを他のDAWに取り込もうとすると、エフェクト調整はすべてやり直しになります(ただし、原音とエフェクトをバウンスしてオーディオにすれば調整はできないですが、読み込むことはできます。ただプロの現場では読み込みだけでは通用しません)。

もう一つ勘違いしないで欲しいのが、「ポストパンは原音にしか効いていない」ということです。つまりバストラックではエフェクト音のコントロールができない事になります。ステレオエフェクトをインサートしていれば、音像をキープするためにバスのパンはセンター固定であると言うことです。エフェクトがステレオであるのに、聴感上のモノトラック(原音)の音像は動きます(ポストパンなので)が、エフェクトはセンターに寄るようにしか聞こえません。

具体的に言うとソロのストリングス(モノ)でステレオリバーブを掛けて広がり感が出ない事はよくあります。これは原音だけステレオの場合でも同じで、エフェクト音の実際はステレオでも聞こえ方はセンター寄りになってしまうと言うことです。結論言うといくらポストパンでもエフェクトの音像をコントロールすることの根本的解決にはなってないのです(ネット上でも「ポストパンで音像定位がはっきりします」と言っている方が多いのですが、原音にしかパンは効いていないので、一聴して解決のように思えますが、エフェクトまでコントロールできないとプロと同じ処理はできません。後述の「プリフェーダー」で解決します)。

これはユニバーサルトラックモードのステレオチャンネルは2本のバスが正体ですが、左右に振り切れていること(つまりモノトラックが2本と同じ状態)で、同じような信号(モノ→ステレオにした場合)が流れると、音像はセンターに寄ります。左右の広がりが感じないところはここにあります。

まとめますと、ポストパンはあくまでも原音の位置だけを特定します。ポストパンはユニバーサルトラックモードでのみ効果がありますが、エフェクト音はコントロールできません。ですから、僕がユニバーサルトラックモードを勧めない理由はここにあります。

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ユニバーサルトラックモードがオフなら、ポストパンとポストフェーダーは同じ動き、同じ効果になります。ここでユニバーサルトラックモードをオンにして、パンの違いを聞いてみましょう。

さっきポストフェーダーのところでもやったのですが、聞き分けられなかった方はここで聞き比べてみてください(図7-3)。

↑ポストフェーダーの音

 

↑ポストパンの音

フェーダーはモノトラックもAuxトラックも固定のままです。右に振ったエフェクト音の音量の違いがはっきりわかります。原音も音量が変わっています。

ポストパンで、信号が流れるレベルが落ちるのがわかります。この状態でエフェクト音を調整しようとフェーダーを上げてやると、書き出し時に影響を受けます。セッティング次第で音量も音圧も、上がったりも下がったりもします(CPUの数と実メモリの差でLogicが何を優先するかで決まります)。

 

プリフェーダー

では、Pro Toolsや他のDAW、またはハードウェアのレコーディングミキサーのように、エフェクト音までコントロールするにはどうすればよいでしょう?原音の音量とパンの影響を受けないようにして、原音トラックとバストラックを別々にコントロールできればよいわけです。

つまり、フェーダーとパンを通る前に信号を分岐してバスへ流す設定が、このプリフェーダーです。従来のレコーディング卓(バスのない昔のやつ)では、これが当たり前だったんです。

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では切り換えてみましょう。Sendボタンを長押ししてポップアップダイアログを表示させます。そこで「プリフェーダー」を選択します。完了後、トラック上のSendボタンはブルーからグリーンに変わっています(これがプリフェーダーの印です)(図8-1)。

原音の音量とパンの影響を受けないと言うことは、原音トラックのインサートエフェクトは通りますから、原音を加工した音質を保ちながらストレートな信号(音量が100%)が出て、バスでエフェクトがかかりますので、きれいなエフェクトがかかります。また、バストラックでエフェクト音量を調整するので、原音トラックの小さいSendボリュームよりも精密な調整がフェーダーでできます。信号の精度(鮮度)はプリフェーダーが一番高いのです。ですから、リバーブのパラメーターにあるアーリーリフレクション(プリディレイ)などの初期反射音がはっきりとコントロールができるので、より残響感(反射音)が調節しやすくなります。

ユニバーサルモードはOFFです。

ですからこのサンプルのように、原音もエフェクトもセンターでありながら、エフェクトはちゃんとステレオの広がり感があります(音もでかいです=>耳要注意!)。先に出てきたユニバーサルトラックモードがONの状態のようにエフェクト音がモノラルっぽく聞こえることもありません。これが本来のモノ→ステレオリバーブの仕事です。

さらにパンをいじってみましょう。原音を左へ振り、バストラックはセンターのままです。先のユニバーサルトラックがONのときと音像の位置は同じですが、リバーブの広がり具合が違って聞こえるため、残響がきれいにきこえます。団子状態に聞こえることはありません。


比較のために、両極端に振ってみます。原音は左、エフェクトは右です。リバーブ音がやや遅れて聞こえると思います。これがリバーブ本来の作り出す残響です(Dry音が0%なので当たり前です)。Auxバスのリバーブ設定は一切変えていません。つまり、プロとのミックスの違いはエフェクト本来の性能を引き出せるように聞き分ける耳を持っていると言うことですから、このプリフェーダーによる送りがより正確で、微細な調整が可能ということです。


この「やや遅れて聞こえる残響」が奥行き感を創造します。聞きやすいようにパンをセンターに戻します。フレーズは全部で8小節で、頭4小節を通常の音量(0.0dB)で、残り4小節-10.2dBまで絞ります(聞き比べるため、オートメーションを使用しています)。エフェクトは触りませんので、原音の音量を抑えることで、音像が引っ込んできます。


さらにパンを振ってみます。原音を左いっぱい、エフェクトはセンターのままです。聞いてみると、左の定位はちゃんと維持されたまま、奥行きが付くのがわかります。


ついでにエフェクトも左へ振ってみましょう。念のため言っておきますが、ここの音源は右が出ませんのであしからず。音源の場所へリバーブが重なるとすごく奥行き感が出てきます。


本来はこうして残響による奥行き感を調整します。そしてこの時に全く同じ量にパンを振るのではなく、たとえば原音を真横(9時くらい)にして、エフェクトを左の振り切りにすると左側の広がり方が音像の外に広がるように感じます。またその逆のセッティング(原音=L振り切り、エフェクト=9時)では元々エフェクトがオフの時に耳のそばで鳴っていた原音が、エフェクト音をオンにして、原音の音量を下げることで、斜め右上に音像が移動した感じ、つまり上方向へのコントロールが可能です。

こうして自在に、繊細にコントロールできるのが、プリフェーダーです。信号の精度(鮮度と言いますか)が強いほど原音に忠実ですので、へたにフェーダーやパンを通すとそこでの劣化がミックスに悪い影響を与えます。これがハードウェアミキサーならばなおのことです。ギターもエフェクターを通すよりアンプ直の方がダイレクト感が強いのと一緒です。

これなら思った音像が作れると思いませんか?ついでに言っておくと、プロのエンジニアが「コンプで奥行きを作る」なんて言いますが、この方法(プリフェーダーでリバーブをプラスする方法)なら各インストに入れたコンプのアタックの微調整でそれが表現できます(プロが良く言うけど素人には難しいテクニックの一つです)。理屈で言うと奥まる音は立ち上がりが遅いのです。遠い音源ほどアタックは弱まります。今使っている音源がギターのリフなのであまり感じませんが、これがストリングスなどの柔らかいアタックを持つモノでは、コンプでアタックをつぶすこと(さらにリリースを遅くしてつぶす時間を長くする)で、より奥まった演出が可能になります。後は原音とエフェクトの音量バランスを調整すると奥行き感が十分に出てくると言うことです。

こうした複合のテクニックは、効果として実際に触らないとわからないことが多いのですが、自分の表現したい音の特長を、エフェクトで作り出してやることで擬似的に作り出すことができます。なので、エフェクトの設定のポイントは必要な音がどんな特長を持つ音なのか、遠いのか近いのか、アタックがはっきりしているのか柔らかいのか、遠い場合は遅れはどのくらいあるかなどを考えて、考え抜いて(想像でよいので)、考え方にバリエーションができれば、ここではあれを使おうとか、その手があったか、というような引き出しになります。プロはこれが多いのです。試行錯誤や実体験も含めてです。

 

実験はまだ続きます。