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ミックスの腕を上げるトレーニング

2013年 02月 14日 04:02 | カテゴリー: Mix
2013年 02月 14日 04:02
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前回の記事2つ「Beatlesに見るレコーディング技術 前編/後編」では、どんなテクニックが開発、発明されてきたかがおわかりいただけたと思います。

これは、前知識として覚えておいて欲しかったことで、特にプロの世界から少なからず踏襲されることが多いわけです。昨今ミックスでお悩みの方へは、これらのテクニックが今のプロが少なからず通ってきたことで、経験値を積んでうまくなってきたのです。

アマチュアも同じで、80年代に4trカセットMTRを使ってきた人は、やはりミックスがうまい人が多かった(特に僕の回りでは)訳です。ちなみに僕の相棒は4trカセットMTRで信じられないくらいクオリティの高いデモを作っていました。いまや某一流レコード会社でプロデューサーをやっています。当時は8trのオープンMTRを持っていた僕よりもミックスがうまく、外部エフェクト(コンプやディレイなど)もラックタイプを持っていた僕より、そんなもの持っていないギター用のエフェクターを駆使して苦労しながら作っていた彼の方が、めちゃくちゃうまかったわけです。

もう機材の問題じゃないことはそのときにわかり、打ちのめされ、苦労と工夫、そして数をこなす(ちなみに彼は4tr MTRでデモを作り始めて3年くらいで700曲に達するオリジナルを持っていました)ことが、必要だったわけです。唯一僕が勝っていたのは機材だけで、それに頼った音質だけが上でした。

昨今ではコンピューターによる曲作りが当たり前で、機材もプロと変わらない中、制約もなく自由に作れることが、ミックスをする人の確実なテクニック向上のスピードを妨げているとも言えます。つまり、答えがないミックスの方法と、このインターネットという情報が散乱する中で、自分の求める結果が具体的に得られない、また、やってみることを恐れて(面倒がって)やらずに終わり、結局できないと変なループに巻き込まれている場合など、何かと回り道をしている人が多いかも知れません。なので、ここでは腕を上げるための訓練と言いましょうか、練習以上に効果的な方法を上げてみましょう。

 

インストをバウンスでまとめてみる

コンピューターの性能次第で、今では無制限トラックが使えるようになっていますが、ある程度低い能力のコンピューターでは、必要な事でもあります。

たとえば、ドラムはたぶん一番インスト数が多い楽器とも言えます。これをベードラ、スネア、タム、ハイハット、シンバルなどをバラでトラックを録るのが普通です。これはソフト音源でも先にMIDIでトラックを作り、後でオーディオに落とすのが普通です。

これを、オーディオに書き出すとき、ステレオでもモノでも(今はモノで落とす人はいないですね、たぶん)音量(+パン他)をすべて調整してオーディオ化するはずです。ドラムだけならまだやりやすいのですが、これにベースを一緒にバウンスしてみます。すると、とたんにバランスが難しくなります。特にベードラとの音量調整です。

前記事のBeatlesを引き合いに出したのはいうまでもありません。昔はトラックを稼ぐのに先にバランスを取ったトラックを作り、そこに別インストを重ねていったわけです。これは、その音量バランスを先に決めるために、後々まで影響してしまうため、バランス録りはかなり重要なのです。

今のDAWなら、こうしたトラックを書き出すのにオートメーションも使えます。しかし、いくらオートメーションを使っても、先にバウンスしたトラックの各インストは調整ができません。ですから、かなり微妙な調節が必要なわけです。音量はもちろんのこと、エフェクト類(コンプ、EQ、ディレイ、リバーブなど掛け取りが必要なモノは先にかけるため)やパンも、決めておかないとバウンスはできません。

まとめるトラックとして適切なのは、ドラム類とベース、ギター(2本以上必要な場合)、ボーカルとコーラス、バッキング系(ピアノやストリングスなど)、ブラス(トランペット、トロンボーン、その他)、ソロ系(ギターやサックスなど)が挙げられます。これらは後期のBeatlesのアルバムを聴くとまとめやすいインストが各方向で聴けるのでわかりやすいと思います。4trまで落とせるならチャレンジしてみてください。

現在ですと、こんなことはやりませんが、制約をかけてやることは腕を上げる第一歩です。ちなみにこれでうまくバランスが取れるようになると、バウンスでまとめるのではなく、busでまとめて音量だけ(正確にはbus上のエフェクト含む)の調整で、ミックスがうまくできるようになります。

 

モノでモニターする

バウンスとも似たようなモノですが、今でも老舗のレコーディングスタジオにはオーラトーンという同軸のフルレンジモニターがでっかい卓の正面に置いてあります。もちろん2台おきでステレオにしている場合もい多いのですが、小型モニターのため、割とセンターに近くに置いています。

今でもそうですが、ラジオや有線向けにモノミックスを作る場合があります。モノミックスは曲をそれとして聴かせるのに、ステレオとバランスが変わります。逆に言うと、モノミックスでうまいミックスができるなら、ステレオでもきれいに聞かせることが可能です。

モノミックスの場合、ただモノにするだけならL/Rがまとまりますから+3dB上がります。つまり、MTRなどではセンターはそのままで、左右に振り切った音像が+3dB上がってきます。今のDAWはPan Lowが設定され、補正されるようになっています。詳しくは「DAWのパンについて知っておくこと」にも、書いてあります。

つまり、センターがほぼ-3dB(DAWによってまちまちです)になっているので、モノでモニターしても変わらないはずですが、EQによる位相差で音が遅れたり、本来の音量より引っ込んで聞こえたりします。これがモノモニターでは、バランスが変わってしまう要因ですから、モノモニターでうまく聞こえれば、ステレオにしてもバランスはうまく保たれているということになります。

 

むやみにマスタリングツールや高度なエフェクトを使わない

マスタリングツールは、マスタリングで使いましょう。つまりですね、音圧を稼ぎたいからとマキシマイザーなどをトラックに突っこむのは余計音圧が上げられない一つの原因でもあります。

基本的にエフェクトは「音質補正」と「音作り」に使います。で、やっぱりプロはさりげなく使うわけです。「音質補正のエフェクト」というのは、EQ、コンプ、リミッター、Tape Saturationなどです。で、マキシマイザーもこの中に入りますが、どれもが歪みに直結するエフェクトと言っても良いでしょう。

この歪みを生むエフェクトは、倍音が増えるわけで、位相が崩れる原因でもあります(これは別記事で詳しくやります)。位相が崩れたインストが多いと打ち消しあって音量が落ちます。なので、これらのエフェクトをかけ過ぎるのは考えものです。音圧上げは、元のインスト(トラック)がしっかりしていてこそミックスが締まり、全体(マスタリング)で音圧稼ぎができるようになります。

また、MS処理などの位相を変更するエフェクトも、訳わからず使用しないこと。まずは、普通にやってみて、できるところまで突き詰めてみること。前述のようにDAW側が補正してくれるようなところもありますので、自由が利かないところでの作業後に試すのがいいでしょう。プロは安易にエフェクト類に頼りません。これも腕を上げる第一歩です。

 

良いと言われるミックスを聞いて分析する

これも常套手段ですが、前記事のBeatlesを聞き込むのも良い手段です。Beatlesならオリジナルアルバム全部と言いたいところですが、あえて絞ると先ずは「Let It Be...Naked」です。できればオリジナルと聞き比べると、何が違うかわかりますし、これを解説している書籍もあります。あとはグラミー賞(Best Engineered Album)の「SGT. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」です。4trで作られたという話はあまりにも有名です。

他にもお勧めどころは、古いのですがこれもグラミー賞(Best Engineered Album)もので、スティーリーダンの「Aja」です。さらにこのスティーリーダンのリーダー、ドナルドフェイゲンの「Nightfly」もよいです。たしか(記憶が薄い...)、3M製のデジタルレコーダーを使った初めての作品と言われています。僕の年代より上の人で、エンジニアの方なら誰もがフェイバリットCDとして上げるモノです。

続いてマイケルジャクソンの「Thriller」、「Bad」もグラミー賞(Best Engineered Album)です。個人的には「Bad」のほうが、ミックスとしては聞き応えがあるように思います。これもフェイバリットにしているエンジニアは多いです。

あとは、何を聞いても良いのですが、エンジニアの耳で聞くこと。つまり、分析できないと意味がないのです。コンプの効き具合や、ディレイやリバーブの濃さ、パンの方向、音の隙間や各インストの音量、バランス、曲全体のダイナミクスと言ったモノを聞いて判断する耳を鍛えることです。

その上で、音像図(どの位置にどんなインストがあるか、定位図とも言います)が描けるようになると、なお良いです。

 

4つほど挙げましたが、プロはこなしている数がめっぽう違います。また、制約があるからこそその中で努力しますから、方法論は様々でも、時間という制約においても確かな方法を選ばなくてはなりません。

一度ミックスして仕上げたモノをインスト別にバウンスして4trにまとめてみるだけでも、また仕上げが変わります。ミックスにはセオリーはあっても正解はありません。また、セオリー自体も外れることも多いです。いろいろな引き出しを持っておくことが、ミックスを上達させるコツです。