その他

Beatlesに見るレコーディング技術 後編

2013年 02月 13日 05:26 | カテゴリー: その他
2013年 02月 13日 05:26
その他

6~9枚目Rubber Soul(1965)、Revolver(1966)、Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band(1967)+ Magical Mystery Tour(1967)

Rubber Soulから、Beatlesにとって大きな変化が現れます。それまでのLive活動を打ち切って、レコーディング中心の活動を始めます。そして、今までできなかったような様々な実験めいた録音が行われます。

そして、真偽は別としても、今のレコーディング業界では基礎とか当たり前と呼ばれる数々の発明、実験が行われ、それまでの録音を凌駕するテクニックなどが編み出されます。

たとえば、ドラムに対するオンマイク(近接効果を狙って、音源にマイクを近づける方法。当時はクローズドマイクと呼んでいた)は、リンゴが初めて録音したと言われ、ベードラに毛布を突っこむミュートもそうです。スネアにはたばこの箱を置いたり、タオルを掛けてミュートしていたそうです。当時は、ルームアンビエンスを使い、響くようにドラムを録っていたのですが、リンゴはあまりWetな音を好まず、適度にデッドな音の調整をしていたそうです。

その他、テープスライス、逆回転サウンド、早回し、遅回し、フランジング(リールの縁を手で押さえて、テープスピードに揺らぎを作る)、そして絶対外せないのがADT(Artificial Double Tracking)です。ダブルトラッキング(歌や演奏における2度重ね)自体はもっと古くからありました。つまり、2度歌ったり、演奏したりするわけです。ADTは1度歌うだけで、ダブリングされたトラックを作り出します。そして時間差を付ければフランジング、位相を変化させればフェイジング、ベースとなる周波数コントロールのオシレーターを触るだけで、この3種類の機能が出せたそうです。このテープ関係のテクニックはBeatles以降、Abbey Roadスタジオで録音を行うアーティスト、ピンクフロイド、ジミヘンドリックスなどにも使用(利用)され、Abbey Roadの名を不動のものとしていきます。Revolverでは、メインボーカルの至る所でかかっています。

もう一つ、テープの逆回転はわかりますが、彼らはそれをもう一歩進めています。テープ速度を半分に落として、弾くフレーズも1オクターブ落とします。さらにこれを逆回転で録音(フレーズも逆から演奏)して、テープとスピードを元に戻すと、何とも摩訶不思議なギターサウンド(ジョージが好んでやっていた)が出来上がるというわけです。Tomorrow Never Knowsのギターソロなどがそうです。

そして、今で言うリアンプです。マイクで拾った音をレスリーSPに通して鳴らし、さらにマイクで拾って録音するってことが、ジェフエメリック(Abbey Road Studioのエンジニア)氏によって試され、Tomorrow Never Knowsのボーカルなどで、確認できます。

ちなみに、演奏中のバックモニターにヘッドホンを使ったのもBeatlesが最初で、この頃です。

厚みを出すためか、物珍しさ、新しさを優先してか、様々な楽器が入ってくることも特長ですね。ジョージを主としたインド楽器系、オーケストラ系、電気(電子)楽器系など、あまりに多いので割愛しますが、生演奏系の2つは、同時録音しなくてはならないという制約があるので、スタジオミュージシャンすら参加しています。これによりトラックが少ない中でもインストを増やすことに成功しています。

4tr-recorder.jpg

特筆すべきは、やはりSgt. Pepper’s Lonely Heats Club Bandで、大きな発明がありました。当時はStuder J37(4tr Recorder)しかなかったのは、ご存じの通りですが、この4tr Recorderを同期させるシステムが発明されました。

これは一つのトラックに同期用の信号を録音し、それにシンクロしてスレーブ(受け側)のRecorderが動くというものです(周波数コントロールシステムと呼んでいます。周波数をコントロールすることでモーターの回転速度を合わせるというもの)。今は廃れましたが、MTR+MIDIシーケンサーの同期でのFSK信号(懐かしい!)の走りと言えるものです。このシステムは、「A Day in The Life」で活用されました。

アルバムでは前後しますがレコーディング時期としては割と同時期で、驚異のレコーディング(ミックス)、ポップスの限界を引き上げたとも言われる名曲は「strawberry fields forever」です。この曲はイントロのフルート(メロトロン)のチューンダウンも有名ですが、2つのテイクを1つにまとめたというところが、ジョージマーティンの手腕です。そもそもジョンのリクエストだったのですが、2つのテイクは、キーもスピード(テンポ)も違っていたもの(メロトロン/ギター版のテイク7とドラム/オーケストラ版)を、うまくつなげたわけですが、今と違い、コンピューターで切った貼ったとできるわけでなく、前述の同期装置を使って2カ所ほどでつなげているそうです。約55秒あたりのチューンダウンの前のところで、イントロのボーカルフレーズを持ってきたところが1つ目で、次のテープスピードを落としてチェロが入ってくるところ(59秒あたり)で次のテイクを差し込んでいるところが2カ所目だそうです。できあがった作品を聞くとあまりにも自然ですので聞き逃してしまいそうなところなんですが、当時の現場としては、キーもスピードも違うテイクを繋ぐのは、至難の業だったことでしょう。

もう一つ触れておかなくてはならない発明品は、現在では業界標準ですが、D.Iボックスの発明です。クリアなベースを録るために、様々な録り方を試行錯誤していましたが、当時はやはりスピーカーから出た音の方が自然なのでD.Iは嫌われていたようですが、エンジニアとしてはクリアに録れるD.Iは必然と言えば必然です。アンプ音とライン音のミックスサウンドで、厚みを出すということも既に行われていたそうです。ただ、当時は自然さを求めてメロトロンですらアンプで鳴らしていたとも書いてます。

 

10枚目 The Beatles(通称ホワイトアルバム、1968年)

このアルバムの特長的なのは、ほとんどの曲が、以前のようにメンバーが全員揃って演奏をしていなくて、みんながバラバラに録音していたことです。ファンとしては悲しい現実ですが、レコーディング的には、さらに実験が続きます。

また結構前から当たり前のように、どのトラックにもFairchild 660またはAltecのコンプレッサーは使われていたようで、「迫力ある音にするのに」掛け取りされていたようです。

制作途中、新たに8tr Recorderが導入され、合わせるようにミキサーも今までの8trから24trミキサーが導入され、ほとんどの曲がこの8tr Recorderに移され、さらなるオーバーダブが続けられます。また、ジョンの手によるRevolution No.9のような実験的な曲もあります。ここで、テープループが使用されます。

真偽はわかりませんが、この後エンジニアとして参加するアランパーソンズ氏はPink Floydでもエンジニアをしており、「Money」でマイクスタンドを使ったテープループを、世界で初めてのループだと言ってます(アルバム「狂気―The Dark Side of The Moon―」のドキュメンタリーDVDの中で解説があります)が、Revolution No.9の方が早いんです。まあ、方法論は別として、同じAbbey Roadスタジオでのことですから、情報の交換はあったと思います。

Revolution No.1がちょっとテンポが遅いと言うことで再録音されシングルで発売したRevolutionでは、ジョンのギターが歪んでおります。これはアンプによるオーバードライブ説とミキサーのオーバーロード説がありますが、どう聞いてもミキサーでオーバーロードしたライン臭い音です。マイク録りともFuzzともちょっと違うレンジで激歪みとなっています。アンプもオーバードライブしていながら、D.Iでライン録音してそれを卓でオーバーロードさせた感じに聞こえるのです。ジェフベックのBlow by Blowでも同質の歪みがあるのですが、こちらは間違いなくラインで卓にダイレクトインして歪ませていると言っています(そういえば、このアルバムもジョージマーティンがプロデュースですね)。まあこれも実験による新しい音として使用されたものでしょう。

 

11枚目以降 Abbey Road(1969年)、Let It Be(1970年)+その他

ご存じの方も多いのですが、レコーディング自体はAbbey RoadよりもLet It Beの方が先で、本来「Get Back」と言う企画アルバムでした。2度ほどお蔵入りとなり、最終的にフィルスペクター氏の手によって大幅アレンジ(ミックス含め)され、Let It Beとして発売されます。そのお蔵入り中に最後のレコーディングとなったのがAbbey Roadです。(レコードの)B面後半のメドレーが圧巻です(これもミックスでつなげられたものです)。

レコーディング的な進歩は、66~67年ほどはありません。既に8tr Recorder+24tr Mixerでオーバーダブも当たり前の中でした。解散まではこのシステムです。目新しい楽器では、Moog IIIpの導入です。ジョージが用意したものですが、至る所で使用されています。シンセの導入は、Beatles以外のアーティストにも多大な影響を与えます。当時出てきた様々なシンセをいろいろなバンドがそれぞれ必要な音を模索し試していました。

唯一、特筆しなくてはならないことと言えば、ドラムがステレオ録音されたことでしょう。メドレーの後半、Carry That Weightでは、従来通りドラムはモノラルで左に寄っています。ですが、最後のThe Endで、ドラムはスネアが右、ベードラがセンター、ハイハットが約2時方向、ミッドタムがセンター、フロアタムが左に定位されています。これまた、ドラムがステレオ録音された最初の曲と言われています。

ミックスの方では、前述の「Get Back」でお蔵入りになったミックスは、タイトル通りポールが原点回帰として望んだ「バンドとしての演奏」を重視したミックスだったことから、他のメンバーが面白くないとだめ出ししていたのが理由だそうで、発売される時点でのフィルスペクターは彼の得意とした「Wall of Sound」と呼ばれた手法で、50人編成のオーケストラなどをふんだんに使ってオーバーダブし、ミックスを完成させたのがLet It Beです。

このアルバムは、当初のコンセプトを全く無視されたとして、特にポールがだめ出ししたアルバムです。制作途中もメンバーの確執で、最悪とメンバー全員が言いながらも、その意に反してアルバムは、絶賛されます。

ですが、これも30年以上の時を超えて、オリジナルトラックが再編成されました。これは当初ポールが掲げたコンセプトに限りなく沿う形で実現されました。これが、2003年発売のLet It Be...Nakedです。

収録曲はオリジナルトラックを今の機材(Pro Toolsなど)に移植され、今のエンジニアが最新機材(といっても既に10年超前ですが)で、ミックスしたものです。ですが、当時のフィルスペクター版からではなく、膨大に録音されたオリジナルテープからの内容ですから、エフェクトも控えめで、音像がくっきりと立っています。そして、Wall of Soundもなくなり、ほとんどがメンバー+α(オルガンやエレピなど)程度のバンド編成で、文字通り当初の企画に基づくように「Get Back」しています。Across The Universeとか、Long and The Winding Roadとかオーケストラがサクッと消えています。

また、roof top concertで演奏されたGet Back、Don’t Let Me Down(オリジナルLet It Beでは入っていない、当時はシングル発売)、I’ve Got A Feeling、One After 909、Dig A Ponyの5曲では、そこで録音されたトラックの採用された部分がとても生々しく、迫力あるものになっています。

そしてこの後、Beatlesの全曲がリミックスされることになり、約4年の歳月をかけて完成されたのが2009年発売のリマスター版です。

初のCD化は1987年で、この時にもデジタルでのリミックスが行われたのですが、この時はまだデジタルと言ってもPCM3348(通称ヨンパチと呼ばれたSony製のデジタルテープ48tr MTR)がメインで、テープ上でのデジタル化でした。そして、イギリス発売のオリジナルミックスが主体でリミックスされました。ですから、前述のように1~4枚目はモノラル、5枚目以降はステレオです。ですがレコードでは、イギリス編集やアメリカ編集版、1~4枚目でも疑似ステレオ版など様々なミックスがありました。これらのミックスをオリジナル回帰としたのが1987年の初CDデジタルリミックス版でした。

対して2009年のデジタルリミックス版では、ステレオボックス版と、モノラルボックス版で分けられ(バラ売り版は基本的にステレオ版)、モノラルボックスは中期~後期のアルバムもすべてモノラルミックスされています。逆にステレオ版の初期アルバムは、レコード盤で存在した疑似ステレオ版(当時の2tr Recorederへの録音は、基本的にL chに楽器、R chにボーカルと録音され、モノラル落とししたもので、これにエフェクト(リバーブなど)を加えて左右に振り分けただけのもの)になっています。ただ、2009年版は「音圧アップは1987年の初CDより(ダイナミクスを重視するため)3~4dBアップにとどめた」そうで、EQも(特に初期アルバムでは一発録りで重ねられた音源が複数あるのでトラックすべてにEQがかかると質感が変わるため)極力かけなかったそうです。

この2009年版は24bit/192kHzでPro Toolsに移植されています。そしてノイズの除去(テープの音飛びやマイクのポップノイズ、編集時のパンチイン/アウトのタイミングずれ、マイクやミキサーからの電気的クリックノイズなど)が行われ、リミックスされています。Pro Toolsに取り込まれたとはいえ、その取り込みも当時のミキサー(例の24trミキサー)を通し、アナログ領域でのEQ処理を施し、マスタリング用のDAWに24bit/44.1kHzに録音、ここでリミッティングして音圧調整し、仕上げたそうです。しかしモノラルミックスでは、一切のリミッティングは行われていないとのこと。

もしチャンスがあれば、この2009年のステレオボックスと、モノラルボックスを聞き比べてみたいものです。実は僕も持っていないので...。

 

Beatlesのアルバムが出ると必ずこうしたレコーディングに関する話題がつきまといます。それほど影響力は大きいというか、レコーディングの礎を気づいてきた人たちが歴史を語るので、興味は尽きません。

実は、もう一人レコーディングに多大な影響を与えた人物がいます。ギターでも有名な故レスポール氏です。発明家でもあったレスは自分自身で作った改造MTRを駆使して8tr Recorderを作り、Sound On Sound(リアルタイムでフレーズを重ねていく方法で、ギター1本でこれを実現していた)を売りにしていた人で、1950年代にそれを実現しています。ただ僕自身あまり詳しくはないので、割愛します。

話を戻して、Beatlesを聞くことで、様々なアイデアやテクニックを察することができます。実際、アマチュアでも4trカセットMTRの経験者ならミックスはうまいと思います。今のコンピュミックスだけで育った人で、ミックスがうまくいかない人は、一度これらの失われたテクニックなどを実体験することで腕を上げることが可能だと思います。

音楽を楽しんで聞くのもありですが、ミックスに悩んでいる人ならエンジニアの耳でレコーディングテクニックを探りながら聞くこともいい勉強になると思います。それにはBeatlesがいい素材です。レコーディングに関する詳細な文献も出ていますから、それらを読みながら聞くとまた新たな発見があるかも知れません。