その他

Beatlesに見るレコーディング技術 前編

2013年 02月 12日 03:42 | カテゴリー: その他
2013年 02月 12日 03:42
その他

モノラル/ステレオレコーダー→4trレコーダー→8trレコーダー→16trレコーダー、そしてアナログからデジタルへ、そして現在はコンピューターによる多トラックレコーディングという変遷をなしてきている録音機器。これらはテクノロジーの進化として喜ばしいことである一方、失われたテクニックも多数有り、発見や発明、チャレンジと言った、いわゆる職人の手作業といったモノが、アプリケーション上のコマンド一発で素人が再現できるまでになりました。

ここ最近、表を出歩くときのiPodでのBGMはもっぱらBeatlesなんです。インナーイヤータイプで聞くと、各アルバムごとに、ミックスが2trから4trへ、アルバムの最後であるAbbey Roadでは8trとなっており、それがはっきりと聞き取れます。僕も様々な情報誌を読んで、あのアルバムはあの機械を使ったというような大まかなことは知っていますが、改めて聞いてみると、苦労していた時代の結果で「こんなことやっていたんだ」と気がつくことが多いわけです。

もちろんこれらは業務用の機械ですが、アマチュアからセミプロまでの範囲で言うと、古くは2trオープンリールから16trくらいまでのマルチトラックのオープンレコーダー、4tr~8trくらいまでのカセットMTRなどがあったわけです。もちろん、業務用とは違いS/N比などは比べものにはなりませんが、この「少ないトラックで、いかにゴージャスに聞こえるようにアレンジするか」というところに、様々なテクニックが凝縮されていたわけです。こんな言い方以外にも「音質を落とさないピンポン」とか、「トラックダウン時にかぶせるエフェクトのパン調整」とか、細かいことを言うと限りありません。

また、ざっくり言うと、イギリス編集の原盤では、1枚目(Please Please Me)から4枚目(For Sale)までがモノラル、5枚目(Help!)からステレオとなっています(詳しいマニアの方がいらっしゃったら、細かいことはご容赦ください)。

 

初期のアルバム(1~4枚目)

初期のアルバムというと、デビューアルバムを含め、オリジナルとコピー曲がひしめくアルバムが揃っており、4人がライブバンドとして「生で」演奏できることが大前提で録音がなされていました。ですから、4人の歌声+ギター2本+ベース+ドラムが基本で、時にはギター1本でピアノやオルガンが加わったりなど、多少のバリエーションはあります。ソロを含めても最大8~10トラックくらい(ここではトラックと言うより、インスト+声という方が正しいかも)のものです。

BeatlesはEMIのスタジオであるAbbey Roadスタジオで、1963年に4tr MTRが導入されて以来、この4tr MTRで録音していたのです。「Beatles Gear」という文献によると、8in/4outのメインミキサーにEQなしの4in/1outのサブミキサーしか無く(「やる気になれば」という言葉があるのでサブミキサーはあまり使われていない様子)、ドラムはオーバーヘッドとベードラの2本のマイクで、1trにまとめていたとのこと。ということは、8inのミキサー+4trのレコーダーで最大32の楽器が録音できるわけですが、これは現実的ではないので、

  • 1tr=ベーシックトラック(ドラム+ベース)
  • 2tr=ギター(2本)
  • 3tr=メインボーカル
  • 4tr=コーラス

こんな感じをベーシックとして、(たぶん)オルガンやピアノなどは1tr/2trに同時録音するとか、コーラスをどこかのトラックに同録して、ギターソロ用に1trとるとか、バリエーションはいくつかあって、その各トラックをモノラルに落としていくという手法だったと思います。

この後で説明しますが、まだレコーダーの複数同期なんてモノもなく、(Beatlesを録音していたAbbey Road Studioのエンジニアが、中期のアルバムの頃に同期システムを発明します)モノラルマスターレコーダーにミックスダウンしていったようです。

この初期と呼ばれる頃は、それこそ演奏者の実力で左右され、誰か間違えばもう一回録るというのは当たり前で、バランスもたとえばマイクの距離で音量を決めるとか、モニターもヘッドホンモニターなんて無くてミキシングルーム同様の壁埋め込みのモニターで演奏者に聞かせながら同時演奏していたようで、単一指向性マイクはもちろん、コーラスなどはそのスピーカーに90度に配置した双方向性マイクでのコーラス録りなどもあったようです。クロストークの出ているところが結構あります。

 

5枚目 Help!(1965年発売)

5枚目のHelp!では、ようやくステレオミックスです。世の中の再生装置がようやく追いついてきたところで、ステレオ録音が割とメジャーになってきた頃です。どの曲もようやく現在同様のボーカルのセンター定位がここで現れます。

楽器類は4カ所の定位が確認できます。両端(9時と3時)45度(10時~11時くらいと1時から2時くらい)です。ですから一度4tr MTRに入れたあと、定位と音量を決めて2tr単位(ステレオ)でもう一台にピンポンし、トータル6trでのミックスとなります。もちろん、前述のミキサーを使って数本を同録すると、インスト自体はもう少し増えます。ですが、ジョージマーティンが音質劣化を嫌ってピンポンは1回までとしていたようなので、このピンポンを含めた6tr分で、どんなインスト(声含む)を入れるか、あらかじめ決めておかなくてはなりません。

また、前述のように発音源からのマイクの距離、声の音量バランスなどは、当然アナログでのリアルタイム処理、今のように一度録って後から編集なんてできないわけです。このことからも、先人達は演奏面におけるレコーディングテクニックを身につけていたわけで、うまい人たちが多いわけです。

 

後編へ続きます。